大判例

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盛岡地方裁判所 昭和50年(ワ)142号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一被告が主として岩手県内の読者層を対象に「岩手日報」なる日刊新聞を発行しているものであるところ、昭和四九年七月二五日付同新聞紙上に別添甲一号証のとおり本件記事を掲載、頒布したことは、当事者間に争いがない。右記事はその頃岩手県江刺市梁川の農民たちの間で話題になつていた次の事実に取材したものである。

すなわち、<証拠>によれば、原告徳永はかねて東北各地の農民からその裁培したニンニク等を買集めこれを他に販売する事業を営み江刺市梁川地区の農民たちのなかにも同原告及び同原告の事業を受けついだ原告会社と取引関係に立つものが相当数いたところ、その者ら約四〇名が昭和四四年ころ梁川ニンニク生産組合を組織し、原告会社との間に右組合に所属する者は向う五年間、毎年原告会社のため相当量のニンニクを裁培し、原告会社は一定価格以上でこれを買受ける、組合員らは原告会社の承諾がなければ原告会社以外の者にニンニクを売ることが出来ない趣旨の契約をし、昭和四六年右契約期間を一〇年に改め契約書を書替えたこと、その契約書(乙第一号証)によれば代金は現品授受の際に品物を検査して(大玉、中玉、小玉等の別により)決定し、決定後直ちに精算することになつていたが、実際は夏収穫し八〜一〇月ごろ納品したニンニクの代金を数回に分けてその後数ヵ月位の間に支払われるというほうがむしろ普通になつていたところ、たまたま昭和四八年夏に収穫し同年九月に組合から原告会社に納品されたニンニク代二九九万六、三〇〇円がうち一〇〇万円は右九月に、更に一〇〇万円が翌四九年三月に支払われただけで、残金の九九万円余りが同年七月の新ニンニクの収穫期になつてもまだ支払われないという事態が発生した。このため組合員の間に次第に不安、不満の声が高まり、阿部仁一ら組合役員の者らが再三花巻市二枚橋の原告会社の事務所に出向いたり電話したりして早期支払方要望したがもう少し待つてくれといわれるだけでらちがあかなかつたこと、以上が昭和四九年七月二五日までの事実関係と認められる。

原告徳永本人は代金未払分は薬剤や肥料代等を差引くと二七万八、〇〇〇円であり、これを昭和四九年七月下旬に支払う旨つとに同年はじめ二回目の一〇〇万円を支払つた時点で組合に告げ、組合役員らもこれを了承していた旨供述するが、<証拠>と対比し措信しえない。尤もこれらの証拠によると昭和四九年始め頃右組合と原告会社との問題が原告会社が同月一〇日に金二七万八、〇〇〇円を支払うことで決着したことが知られる。それは原告会社から供給を受けた鶏ふん、殺虫剤等の代価等が差引かれた為であるが、組合員らは以前に原告会社から鶏ふん等を無償で支給されたこともあつて今回も必ずしも差引かれるとは考えていなかつた。いずれにしても昭和四九年七月二五日の時点では右鶏ふん代等については両者間に何らの取りきめもなく、組合員らは単純に残代金九九万六、三〇〇円の請求権があると考えていたことが証拠上明らかである。

なお因みに原告会社が昭和四八年に引取つたニンニク代金の一部の支払をかく遅らせたことについて原告会社側に何らかの正当の理由があつたかというに、それは本件全証拠によるも確定できない。成程、前掲証拠によれば、右ニンニクの一部が原告会社の引取り後に腐敗した形跡があるが、原告会社はいちおう品物を検査して収納した筈であり、それが直ちに組合の債務不履行に結びつくものとは断定できない。

そこで右認定事実と本件記事を対比すると、本件記事は少なくともその主要部分において真実であり、原告らがこれを特別問題にしないのもこのためと考えられる。

二原告らが問題にするのは本件記事中の本件見出し部分である。確かに商社が契約違反をして払うべき取引代金を払わないでいるというようなことが不特定多数の読者を有する新聞紙上に報道されるということは通常商社にとつて信用問題であるから右記事は原告らの名誉と直接かかわりを持つている。

1 しかし、本件見出し部分を含む本件記事が全体としておおむね真実を報道したものとみられるべきこと前段説示のとおりである。そうして<証拠>によれば、被告が右事実を報道したのは岩手県下に野菜とかニンニク等の換金作物に手を出す農民が次第に増加しつつあつた時期に同県内江刺地区の農民の間に前認定のような事実が発生し、右事実を報道することに意義を認めたためと認められるから、もとより私利私怨等に出たものではなく、ことが公共の利害に係り、もつぱら公益を図る目的に出たものであると認められる。

2 そこで本件見出し部分も、特に冒頭に「“クサイ”大阪の貿易会社」とあるのを除いて考えると、それ自体が名誉毀損に該当するかの判断はともかく、たとえそれによつて原告らの名誉が毀損されたとしても、違法とはならないものである。成程、右見出し部分中「ニンニク代支払わず」にしても「契約違反近く直訴」にしても使われている活字は相当大きいが、虚偽の事実を誇大に訴えたものではなく、本件記事を一読すれば、原告会社がニンニク代を支払わないのは納入されたニンニクが腐つて資金繰りが円滑にいかなくなつたためであること、契約違反というのは単にニンニク代の一部が右の如き事情で支払われないでいるに過ぎないこと、直訴というのは本社に直接交渉に出向くことであることなど、その意味するところが容易にわかるのであるから、右活字の大きさを考慮してもなお右見出し部分の文言が原告らの名誉を毀損する不法行為になるとは解し得ない。

3 しかし、本件見出し冒頭の「“クサイ”大阪の貿易会社」については、以上とは若干判断を異にする要素が含まれている。けだし、事実はせいぜい原告会社の債務不履行に過ぎないのに、“クサイ”という表現には俗に「きなくさい」「クサイものにふた」などと使われるようにまだ事態が完全明白になつていないものの何かそれ以上に良からぬことが隠されていそうだという、原告会社を必要以上に不良会社に印象づける要素をその表現自体の中にはらんでいるからである。証人多田代三、同村田源一朗らは、右は単に原告会社の代金不払という正常ならざる状態をニンニクープンプンにかけてクサイとユーモラスに表現したに過ぎないと述べている。確かに見出しは本文(本件記事)と不即不離のものとして理解すべきであり、本件記事を読者が読む限りでは右表現はそれ以上の具体的事実を後続の文章から了知しえない。しかしそれにもかかわらず、右表現部分はそれが冒頭に大見出しで大々的に表記されていること、「ニンニク代支払わず」「契約違反」と続いていることと相まつて、一般読者にどうしても右被告の表現意図以上の原告らに対する不信感を客観的に抱かせる性質のものである。果たして然らば右はもはや前述の記事内容の真実性とか公共性ではカバーし得ない部分であり、この部分について名誉毀損の成立を認めざるを得ない。

4 右「“クサイ”大阪の貿易会社」の貿易会社が原告会社を意味することは、後続の本件記事の読者には一読して明らかである。更に<証拠>その他本件弁論の全趣旨からして窺われる右会社と原告徳永との関係からすれば、原告会社は原告徳永個人の事業が法人成りしたもので両者は実態上ほとんど二にして一であることが知られる。かかる場合には社会生活上の信用度も一つとみられうるから、右見出し部分の記事は原告ら両名の信用を傷つけたものとみて妨げない。

(海老澤美廣 長門栄吉 堀滿美)

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